定時に帰ることで恋を疑似体験できる

食事・洗濯・入浴。

すべての日常生活動作(ADL)に光が差し、その頬はゆるいオムレツのようにゆるんだ。いうまでもなく彼の通り道には花が咲き乱れ、自制をゆるめると廊下でトリプルルッツ&ダブルトゥループをキメてしまいかねない。その視線はこの世の生命すべてに慈愛をもって注がれ、あまった慈愛は無生物にも注がれた。

 

いつからだろうか。

 

本当に人々の役にたつことをしたい。そう願って入社した新人が、死と混沌を司りたくなるまでに時間はかからなかった。残業で疲れた目は虚ろで、3次元はおろか2次元の認識にも支障をきたし、その認識は1次元にとどまった。自意識はとうの昔に魂から剥離し、家中を跋扈していた。いっそ、楽になりたい。ホグワーツに入学して闇の帝王になりたい。

 

そんな気持ちは定時帰宅で消し飛び、体には活力がみなぎった。彼は一心不乱になって入浴を楽しみ、カーペンターズヘッドバンキングした。彼の首はウサイン・ボルト並みの速度を叩きだすと、部屋に飛び交うソニックブームは次世代のブームを人類にさし示し、新種の生命が誕生し繁殖した。

 

その喜びようはもはや人類の枠をはるかに凌駕しており、彼の者の気持ちを文字で表現しようということ自体がおこがましい。あらゆる方向から差す後光は容易に本人の視界を奪っており、その輝きはミラーボールを思わせる。

 

私は何を言っているのだろうか。収集がつかなくなってきた。

定時帰りってたのしい。